モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノで その3

モーツァルトクラリネット協奏曲の第3楽章をピアノソロ用に編曲中。

以前の記事はこちら。

 

以下、前回の続き。あくまで制作過程なので完成までに色々変わると思う。

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57小節目〜、副主題の提示。このテーマが個人的にとても好き。チャーミングでモーツァルトらしい。この前打音を伴った動機はこれから様々な形で用いられて、重要な役割を果たしていく。

61,62小節目や69小節目〜のアルペジオを伴ったパッセージは、ピアノの音域を幅広く使って、手の交差やオクターブを入れてピアニスティックにした。とはいっても一貫してpで軽やかに(leggero)、さらっと弾きたい。

 

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続く推移部(73小節〜)は副主題の動機がメランコリックに扱われて見事な対比。ここではスコア上はソロパートが伴奏に回る。モーツァルトの円熟期の作品ではこういうポリフォニックな書法がよく出てくる。スコアを見てるとクラリネットの多彩な音色を生かすモーツァルトの筆の巧みさに感動する。編曲にあたっては、難易度が上がってもポリフォニックなところはなるべく簡略化したくない。一見地味だとしても音楽的にはとても美しいので。

 

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経過句。一転してショパンのワルツみたいになった。アルペジオや跳躍で両手が動きまわるので難しい。派手に弾いてしまいがちなのであえてmpやp、molto leggero(極めて軽快に)と指示を書いた。あまりペダルを使わないようにしたい。

84,85小節と86,87小節に見られる同じ音形の反復は、エコーと呼ばれるバロックや古典派の音楽によくあるフレージングで、二度目の方をエコー(反響)のように弱く演奏するのが慣習になっている。一度目と二度目で左手の伴奏を変えた。

88小節からは運指に工夫が要るかも。

93小節は2オクターブのユニゾンを使って音色の変化を意識した。

この辺りはオケの伴奏の音を全部ピアノで弾こうとすると派手になりすぎるので、軽快さを出すために音を減らすようにした。音を増やしていく作業は楽しいだけに、ついついごちゃごちゃさせてしまいがち。左手は右手より大人な感じで、ひかえめに、クールにいきたい。

 

続きは次回。

 

以下、余談。

このコンチェルトはモーツァルトが1791年にバセットクラリネットという特殊な楽器のために書いて、その後すぐ亡くなった。バセットクラリネットは普通のクラリネットより音域が広くて、より低音まで出せる。ただ、珍しい楽器だったので、モーツァルトの死後この作品が出版されたときには、通常のA管クラリネットで演奏できるように何者かによって編集された版が使われた。自筆譜は失われてしまったので、今日までその編集版をもとに演奏されることになったそうだ。

この編集版には通常のA管クラリネットで演奏できるようにするため無理やり音形を変えた箇所が多くあって、色々問題があるらしい。この辺りの情報はWikipedia(英語版)を参照。

 

例えばその編集版にある不自然なフレーズがこういうやつ(譜例は実音表記)。

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これら(譜例1)はモーツァルトは本当は下の譜例2みたいに書いてたんじゃないか、って推測できる。たしかに一見して譜例2のほうが自然だしダイナミックでいいですね。個人的には上のやつも味があってなかなか悪くないと思うけど。

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今回、ピアノ版を制作するにあたって、譜例2みたいな、モーツァルトは本来はこう書いてたであろう的な音形を積極的に採用することにした。ピアノだったら普通に弾けるしね。せっかくだから幅広い音域を駆使してこの楽器の持つ多彩な響きを引き出せたらいいなと思う。

 

 今回はここまで。次回へ続く(完走できるか…?)。 

モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノで その2

モーツァルトクラリネット協奏曲の第3楽章をピアノソロ用に編曲しています。

以前の記事はこちら

 

編曲にあたっての方針をだいたい考えた。なるべくスコアに沿った編曲をすること。構成は原曲に忠実に、和声もできるだけ原曲に準拠する。とはいってもスコアをそのまま大譜表に移植するような感じでもなく、ピアノという楽器の特性に合ったアレンジをして、独立したピアノ作品として仕上げること。難易度を下げるためだけの目的で音を変えたりしない。など。

スコアはIMSLPパブリックドメインの無料楽譜ライブラリー)で閲覧できるので興味のある人はどうぞ。 

ざっと分析してみた感じ、この楽章は大規模なロンド・ソナタ形式な模様。展開部と再現部の区分けが明確じゃなかったりして、かなり自由に書かれている。自由ではあるんだけど、隅々まで緻密に構築されててまたそれがスゴい。隙がないと思うよ。雑に言い切ると、モーツァルト is 天才。神。

 

以下、スコアとにらめっこしながら現在進行形で制作していってるピアノ版の楽譜を紹介。ついでに簡単な解説と分析。

 

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冒頭。ロンド主題の提示。序盤の見た目はまだシンプルでピアノソナタとかで普通にありそうな感じ。

同じ主題でもソロとトゥッティの違いがあるので響きを変えるように意識する。3度の連続が地味に難しい。

この主題の中に、楽章全体を構成するパーツとなる動機がいくつか示されてる。冒頭の同音でタッタッタッていうやつとか16部音符の順次進行の下降音列とか。

 

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経過句。軽快な16分音符のパッセージはピアノで弾いても楽しい。

細かいところは後回しにしてとりあえず最後まで作ろう、と思ってやっててもアーティキュレーションとか色々こだわってしまうね。

 

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第一ヴァイオリンのパッセージを思い切って左手に担当させた。ソロパートと対比させるための工夫。並行8度が出てきてしまったのでバスを追加することで緩和。響きは微妙だけどソロパートとの対比を優先した。

続く推移では16分音符の動機が8分音符に拡大されたり反行したりして自由に扱われてるのがわかる。

 

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43小節目からの推移、ソロパートを高音域に移動。この辺りからちょっとショパンっぽい。51小節目〜のトゥッティはピアニスティックなパッセージにアレンジした。難易度は高くないと思う。

46小節目に、57小節目で提示される副主題の動機がさりげなく先取りされている。一瞬のことだけど、明確に提示する前にこうやってチラ見せして次の展開を予感させてくるのが、ほんとセンス良い。

小終止を経て副主題の提示へ。

 

まだまだ序盤だけどひとまずここまで。

スコアを細部まで読み取って編曲していく作業は大変だけど楽しいな。時間も手間もかかるけどその分色々と勉強になってるなと感じる。 

その3へ続く。

 

モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノで

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最近、モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノソロ用に編曲するのがちょっとした日課になっている。

もともと好きな曲なのだけど、好きなフレーズなんかをテキトーな耳コピで弾いたりしてるうちに、ちゃんと弾いてみたくなった。編曲モノの名曲って結構たくさんあるんだけど(ブゾーニ編のバッハのシャコンヌとか有名ですね)、このモーツァルト最晩年の傑作には意外とピアノソロ用の編曲が見当たらないので、いっそ自分でピアノ版の楽譜を作ってみることにした。

というわけで早速スコアに目を通しながら時間をかけてピアノでさらってみたんだけど、コンチェルトなのでやっぱり長い。気軽に始めてみたものの相当な根気の要る作業に手をつけてしまったみたいなので、無事完成させられることを祈って、できる範囲で進捗を記してみようかと思う。挫折しませんように。

 

真っ先に手をつけたのは第3楽章のロンド(アレグロ)。理由はこの楽章が一番好きだから。とりあえずこの楽章だけでも完成させられたらいいな。

 

Julian Blissの演奏。第3楽章は19:20から。

 

モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノで その2へ続く