モーツァルトのクラリネット協奏曲をピアノで その3

モーツァルトクラリネット協奏曲の第3楽章をピアノソロ用に編曲中。

以前の記事はこちら。

 

以下、前回の続き。あくまで制作過程なので完成までに色々変わると思う。

f:id:creoless:20151023222736j:plain

f:id:creoless:20151022044641j:plain

57小節目〜、副主題の提示。このテーマが個人的にとても好き。チャーミングでモーツァルトらしい。この前打音を伴った動機はこれから様々な形で用いられて、重要な役割を果たしていく。

61,62小節目や69小節目〜のアルペジオを伴ったパッセージは、ピアノの音域を幅広く使って、手の交差やオクターブを入れてピアニスティックにした。とはいっても一貫してpで軽やかに(leggero)、さらっと弾きたい。

 

f:id:creoless:20151022044714j:plain

続く推移部(73小節〜)は副主題の動機がメランコリックに扱われて見事な対比。ここではスコア上はソロパートが伴奏に回る。モーツァルトの円熟期の作品ではこういうポリフォニックな書法がよく出てくる。スコアを見てるとクラリネットの多彩な音色を生かすモーツァルトの筆の巧みさに感動する。編曲にあたっては、難易度が上がってもポリフォニックなところはなるべく簡略化したくない。一見地味だとしても音楽的にはとても美しいので。

 

f:id:creoless:20151022025500j:plain

f:id:creoless:20151022025512j:plain

経過句。一転してショパンのワルツみたいになった。アルペジオや跳躍で両手が動きまわるので難しい。派手に弾いてしまいがちなのであえてmpやp、molto leggero(極めて軽快に)と指示を書いた。あまりペダルを使わないようにしたい。

84,85小節と86,87小節に見られる同じ音形の反復は、エコーと呼ばれるバロックや古典派の音楽によくあるフレージングで、二度目の方をエコー(反響)のように弱く演奏するのが慣習になっている。一度目と二度目で左手の伴奏を変えた。

88小節からは運指に工夫が要るかも。

93小節は2オクターブのユニゾンを使って音色の変化を意識した。

この辺りはオケの伴奏の音を全部ピアノで弾こうとすると派手になりすぎるので、軽快さを出すために音を減らすようにした。音を増やしていく作業は楽しいだけに、ついついごちゃごちゃさせてしまいがち。左手は右手より大人な感じで、ひかえめに、クールにいきたい。

 

続きは次回。

 

以下、余談。

このコンチェルトはモーツァルトが1791年にバセットクラリネットという特殊な楽器のために書いて、その後すぐ亡くなった。バセットクラリネットは普通のクラリネットより音域が広くて、より低音まで出せる。ただ、珍しい楽器だったので、モーツァルトの死後この作品が出版されたときには、通常のA管クラリネットで演奏できるように何者かによって編集された版が使われた。自筆譜は失われてしまったので、今日までその編集版をもとに演奏されることになったそうだ。

この編集版には通常のA管クラリネットで演奏できるようにするため無理やり音形を変えた箇所が多くあって、色々問題があるらしい。この辺りの情報はWikipedia(英語版)を参照。

 

例えばその編集版にある不自然なフレーズがこういうやつ(譜例は実音表記)。

f:id:creoless:20151023220606j:plain

これら(譜例1)はモーツァルトは本当は下の譜例2みたいに書いてたんじゃないか、って推測できる。たしかに一見して譜例2のほうが自然だしダイナミックでいいですね。個人的には上のやつも味があってなかなか悪くないと思うけど。

f:id:creoless:20151023220618j:plain

今回、ピアノ版を制作するにあたって、譜例2みたいな、モーツァルトは本来はこう書いてたであろう的な音形を積極的に採用することにした。ピアノだったら普通に弾けるしね。せっかくだから幅広い音域を駆使してこの楽器の持つ多彩な響きを引き出せたらいいなと思う。

 

 今回はここまで。次回へ続く(完走できるか…?)。